近年、日本でも頻繁に取り上げられるようになった「ギフテッド」
今回はギフテッドの定義や意味について、また、ギフテッドの共通特徴についてまとめています。
ギフテッド児における共通の特徴と言われている過興奮性(OE、過度激動)と非同期発達。
この二つは、ギフテッドの定義には含まれていませんが、共通して見られる特徴とされています。
ギフテッドとは
ギフテッドとは、生まれつき知性が高く、突出した能力を持つ人のことです。周りの同世代の子供より成長が早かったり、一般的な成長過程と異なるため、親が気づくケースがあります。
また、努力して優秀な成績を修める「秀才」とは異なります。先天的とされているため、後天的に「ギフテッドになる」ということはありません。つまり、早期教育や勉強を努力してギフテッドになるというような言い方はしません。
「ギフテッド=天才」と称されることもありますが、「万能な天才」というよりは、多くのギフテッドは「特定の分野において突出した能力があるが、支援が必要な子」です。
次に、日本より古くから研究がされているアメリカの「ギフテッドの定義」についてみていきます。
ギフテッド(Gifted)のアメリカにおける定義
ギフテッド教育に関する初めてのアメリカの報告書(1972)であるマーランド・レポート(EDUCATRION OF THE GIFTED AND TALENTED)によるとギフテッドの定義を以下のようにしています。
・突出した能力によって高い実績を上げることができる子ども。
・高い実績を上げられる子どもとは、実際に成果を上げている子どもだけではなく、潜在的な能力を秘めている場合も含む。
・才能の領域は、知的能力全般、特定の学問に関する能力、創造的・生産的思考、視覚的芸術や芸術、リーダーシップ、スポーツ。
・ギフテッドの子どもは、資格を持った専門家によって判定される
また、全米小児ギフテッド協会「NAGC(National Association for Gifted Children)」は、定義を以下のようにしています。
“Gifted individuals are those who demonstrate outstanding levels of aptitude (defined as an exceptional ability to reason and learn) or competence (documented performance or achievement in top 10% or rarer) in one or more domains.
Domains include any structured area of activity with its own symbol system (e.g., mathematics, music, language) and/or set of sensorimotor skills (e.g., painting, dance, sports).”
引用元National Association for Gifted Children
つまり、ギフテッドとは、ひとつまたは複数の分野で優れたレベル(並外れた才能と定義される)を示す人々のことです。領域は、数学、音楽、言語といった学問だけではなく、感覚運動スキル(絵画、ダンス、スポーツなど)も含むとしています。
ギフテッドの才能の領域については、アメリカの心理学者ハワード・ガードナー(Howard Gardner)による「MI理論」による8つの知能を用いられることがあります。
MI理論については以下に詳しく解説しています。
このように、gifted(ギフテッド)は、学業面だけの知能の高さを意味しているわけではありません。ただ、アメリカも州ごとに定義が異なったり、文化や国によっても基準はまちまちです。
日本での診断方法
日本ではギフテッドについて明確に定義されていません。ようやく日本も議論され始めましたが、文科省もギフテッドという言葉は用いず、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」という言葉を使っています。
また、現在国内においてギフテッドを診断、判断する機関というのははっきりとはありません。
(※ギフテッドは医学的な診断名ではないため、診断という言葉は使用しません)
日本国内においてこの分野では有名などんぐり発達クリニックも、ギフテッドの診断を目的にしているのではなく、あくまでも困り事がある子の支援が目的となります。
ギフテッドを判定する際に、知的水準が上位3~5%という基準も広く使用されており、IQ130以上がギフテッドとみなされることもあります。
しかし、最近は単純にIQ(知能指数)だけではなく、ギフテッドに共通してみられる行動特性というものがあり、行動特性もあわせて判断することが多いようです。
ギフテッドは、インターネットのIQテストやギフテッド診断テスト、脳波などで測れるものではありません。
我が家がギフテッドと「認定」されるまではこちら☟
ギフテッドの特徴 共通の行動特性
ギフテッドの判定方法の一つに知能検査がありますが、親にとっては行動特性が判断材料になることが多いようです。
ギフテッドといっても、個々の特性は多様です。100人いたら100通りのギフテッドがいるのですが、多くのギフテッド児に共通してみられる特徴として以下のような行動特性を紹介しています。
こういった行動特性が多くみられる場合、ギフテッドである可能性が高いとされています。
息子は下記項目のうち20項目ほど当てはまります。私自身も、息子と一緒に生活をしていてなんか他の同じ月例の子とは違うな、なんか私とは色々な感覚が違うな思うことが多く、行動特性が判断材料になった一人です。
・乳幼児から並外れた注意力がみられる
・学習の呑み込みが早く、考えを素早く関連付けられまとめられる
・多量の情報保持、優れた記憶力
・年齢に対し並外れた豊富な語彙と複雑な文章構造をもつ
・単語のニュアンスや隠喩、抽象的なアイディアへの高度な理解力がある
・数字やパズルを好んで解く
・未就学のうちにほぼ独学で読み書きのスキルを身につける
・並外れた感情の深さ、激しい感情を持ったり反応をする。
・抽象的、複雑、論理的で洞察力のある思考
・幼少期から理想主義や正義感がみられる
・社会的、政治的問題や、不公正さや不公平さへ関心がある
・長時間の注意持続、粘り強さ、高い集中力
・自分の考えることで頭がいっぱいになる
・自分や他者のできない状態や遅い状態にいたたまれなくなる
・基本スキルをあまり練習せず素早く取得する
・鋭い質問
・幅広く関心をもつ
・非常に発達した好奇心
・試したり違う方法で行ったりすることに興味をもつ
・通常使わないような方法で考えや物事をまとめる
・特徴的なユーモアセンスがある
・ゲームや複雑な図式をとおして人や物事をしきりたがる
・想像上の友達がいる(未就学児)
このように、単純に優秀であったり、賢いからギフテッドというわけではありません。
あくまでも育てている私自身の感覚にはなりますが、頭の回転や理解が速い、という点だけではなく、ちょっと周りと考え方、感じ方、物事の捉え方、見ている視点が違う気がする。というのが母親目線での印象です。
⇩こちらの記事では上記の特徴を息子の具体例を挙げて一つずつ説明しています。宜しければこちらもご覧ください。
ギフテッドの激しさ(過興奮性・過度激動・OE)
次に、ギフテッド児に見られる共通特性の一つ、「激しさ」についてです。
ギフテッド児のあらゆる根本に流れているのが突出した激しさといわれています。
精神科医のドンブロフスキは、高知能であることは知的な情報処理能力が高いというだけでなく、様々な感覚的情報も大量に取り込み、そこに強く反応するということにも繋がると唱えています。
ギフテッドは環境からの刺激に対する感受性や興奮性が高く、情動をより強烈に、そしてより衝動的に感じる傾向があることを示しています。
簡単に言うと、ギフテッドは並外れた激しさと繊細さを持ち合わせているということです。
また、これらの興奮は5つの領域(知的・創造性・感情性・知覚性・精神運動性)で起こるようだとしています。
これがOE(Overexcitability)、過度激動や過興奮性と呼ばれるものです。
5つのすべての領域で興奮性の情熱が見られる人もいれば、1つか2つの領域で見られる場合もあります。
知的OE | 一般に広く知られているギフテッドの特徴。 好奇心、鋭い質問、集中力、問題解決力、論理的思考など。 |
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想像性OE | 隠喩などの表現に優れる。想像力が豊かなため、複雑な構想を思い描くのが好き。 一方、注意力散漫と見られこともある。いわゆる枠にとらわれない独創的な考え方。 |
感情性OE | 感情の種類と幅が大きく「ドラマチック」な反応を示す。 より楽しみ、より悲しみ、より腹立ち、より驚き、より恐れ、より共感するため大げさだと批判されることも多い。 感情のOEは親が気付きやすい。 |
精神運動性OE | 精神運動のOEのある子は非常にエネルギッシュで活発。 エネルギーが有り余っているため、一般的に「落ち着きがなく頭の回転が速い」印象を与えるもの。 身体的多動だけでなく、話すスピードが速い、頭が働いて眠れない、という精神的多動を示す。 |
知覚性OE | 「神経質」という言葉で表される性質で、まぶしい光、大きい音、匂い、触感など感覚器官に与えられた刺激に過剰に反応する。 靴下の縫い目や服のラベルが気持ち悪いなど。 鋭い感性は、幼少の頃から絶景に息を呑み、名曲に涙を流すといった美的感覚にも通ずる。 |
感覚過敏や精神運動の過興奮性のある子は、ADHDやASDなどの発達障害と誤診されることも多く、混同されやすい特性です。
OEの特徴は、育てにくさや周りとなんか違う気がする、と気づくきっかけになりやすい特徴でもあります。
具体的に5つの領域について、我が家の息子の例も挙げながらご紹介します。
知的過興奮性
自分の知らないことや知識が足りないと感じる分野があると、もっと知りたい!と思うと同時にすぐ調べないと気が済まないそうです。知的好奇心が高く、興味を持つとどんどん深掘りをしていきます。
また、問題解決能力が著しく高いのも特徴です。何か問題が起きた時に、こういう時はこうすれば良いのではないか、という解決策をいくつか即座に思いつき、思いついた時には行動している、というような感じです。
小学生の頃から、親の力を借りなくとも自分でなんとかしようとする行動力と問題解決能力は長けていました。
想像の過興奮性
”think different”ができる能力として賞賛される資質とも言われます。みんなが思いつかない考え方をすることがあると担任の先生に言われたことがあります。
一般的には、創造力の高さを指し、複雑な構想を思い描きます。息子はあまり当てはまらないのですが、空想の世界に入り込み、周りからはぼーっとしていると見られてしまうこともあります。
感情性過興奮性
感情性OEについては、喜怒哀楽全ての感情について言えるのですが、中でも「怒」に関しては、そんなことでそこまで怒る?というようなことは日常茶飯事。人生ゲームで負けたり、クラス対抗戦で負けた時はものすごい剣幕で怒ります。
悔しい時、悲しい時は人目をはばからず涙します。とにかく感情の振れ幅が大きいのが特徴です。
知覚の過興奮性
感覚過敏と似ているので区別がつきにくいのですが、息子の場合は五感が敏感なことに加えて「鋭い感性」の持ち主です。5歳で虹を初めて見て感動して涙をしたり、小学生の頃は絶景を見て感極まって涙をしたこともあります。
この過興奮性がある子は、タグを嫌がったり、光に敏感であったり、食べ物に偏食が見られたりと日常生活に支障が出る場合があります。
精神運動の過興奮性
精神運動の過興奮性は、目覚めた時から寝る瞬間まで非常に活動的です。常に何か考えていたり、次は何をしてやろう、と体だけではなく頭の中も活動的です。
時に、神経症的習癖や激しい衝動性、脅迫的行動が現れることもあります。息子も一時期、チックが見られたり意味もなく声を発さないといられないということがありました。これらの行動はADHDと誤診される可能性が高く、親としてもADHDの多動症なのではないかと感じることが場面場面で見られました。
非同期発達(asynchronous development)
過興奮症と同じくらいギフテッドの特徴として挙げられるのが「非同期発達」です。
「非同期発達」とは得意な能力をどんどん発達させ、他の能力との差ができてしまい、発達が同期していないように見えるというギフテッドの特性の一つです。
通常、発達は成長とともに精神的成長、知能、言語能力、社会性などは互いに関連しながらほぼ同じペースで成長するのに対し、ギフテッド児は、発達にアンバランスさが見られることがあります。
例としては、知的能力は非常に発達しているのに、運動能力やソーシャルスキルが非常に遅れている、といったことが挙げられます。
息子の場合はギフテッドによる非同期発達に加えASD(自閉症スペクトラム)の特性も重なり本当に理解不能な言動をしたりします。アスペルガー+ギフテッドの2Eの場合は極端な非同期発達を見せることがあり、それがさらに不可解で奇妙な行動に繋がるとされています。
また、ギフテッドにはIQの数値によって呼び名が違うのですが、プロファウンドリーギフテッドの場合はさらに大きな非同期発達が見られると言われています。
ギフテッドのランク・呼び方
IQ100が標準とされています。
IQ115〜IQ129 マイルドリーギフテッド
IQ130〜IQ144 モデレートリーギフテッド
IQ145〜IQ159 ハイリーギフテッド
IQ160〜IQ179 エクセプショナリーギフテッド
IQ180以上 プロファウンドリーギフテッド
アインシュタインはIQテストは受けていないのではっきりとはわからないですが、IQ160〜190と言われているので、プロファウンドリーギフテッドに値することになります。
ギフテッドのタイプ
大きく分けると「英才型」と「2E型」に分けられます。
英才型…全体的高い知能を持つギフテッドのタイプです。学校生活でも特に問題もなく、学業成績も優秀なため、周りからも一目置かれる存在です。
2E型…高い才能や知能と障害を併せ持つ「二重に例外的な(Twice exceptional)2E」と呼ばれるタイプ。ギフテッドと発達障害を併発しているため、得意なことと苦手なことの差が激しい傾向があります。
「英才型」の場合は、周りから見ても「よくできる人」と明らかに見られることが多く、特に困りごともなく周囲が環境を整えやすく才能も伸ばしやすいようです。
「2E型」のギフテッドの苦手な部分は多様で、この苦手な部分がADHDやASDの症状と類似しているためギフテッドの部分が埋もれ発達障害と誤診されるケースも多くみられます。
息子は発達障害の診断はされていませんが、ASD(自閉症スペクトラム)の傾向がある2Eタイプと言われました。
これは経験上ですが、発達障害の診断名がつかなくとも、知能検査の結果に大きな凸凹が見られたり、発達障害の症状と同じような傾向が見られると2Eと言うようです。
医師曰く
高IQの場合、凸凹の低い部分も平均以上だったりする。
そうすると苦手な部分も高い知能でカバーしてしまうから
発達障害とは診断はしないことも。
また、1988年にGeorge Betts と Maureen Neihartによって「Profiles of the Gifted and Talented」という6つのパターンの図が作成されました。これは、ギフテッド児の感情、行動、ニーズを調べることで彼らをより理解するために作成されました。
以下をご覧いただくとわかるように、一口にギフテッドと言ってもタイプが様々で、その子に合った支援が必要となります。
発達障害との違い
ギフテッドの特性には、発達障害の特性と似た部分も多く、発達障害と誤診されることがありますが、ギフテッドと発達障害は別物です。
例えば、多動や衝動性などADHD(注意欠陥多動性障害)によく見られる症状ですが、ギフテッドの場合も同じような症状が見られることがあります。
発達障害が起因でその症状が起こっているのか、ギフテッドが起因でその症状が起こっているのかによって支援方法が異なるため、医師による慎重な判断が必要となります。
但し、先ほど挙げた「2E型」のように両方を持ち合わせているケースもあります。
発達障害であるADHD(注意欠陥・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、LD(学習障害)も、ギフテッド児も、社会性や学業面での困難を抱えることがあります。
その場合、心理士さんに言われたこととしては
発達障害の部分だけではなく、優れた才能、鋭い感覚などギフテッドの部分も両方の面を支援していく必要があります。
ギフテッドの生きづらさ
ギフテッドは、得意な分野では並外れた能力を持ちますが、何でもできる万能な人という意味ではありません。
これらのギフテッド特有の特性や、「過興奮症」「非同期発達」により、ギフテッド児は困り感や生きづらさを抱えていると言われます。
年齢によって困りごとは変化していきますが、何らかの生きづらさを感じているにも関わらず、適切な支援が受けられない場合、「二次障害」や「アンダーアチーバー」になる可能性もあります。
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ギフテッドの育て方
ギフテッドの育て方についてですが、「ギフテッドは才能だけ伸ばせば良い」という簡単なものではありません。
得意な部分だけではなく、苦手な部分(凸凹の凹)もケアしていく必要があります。
得意なことへの支援
- 強みを伸ばす
- 知的好奇心が満たされるような環境調整
- 機会を与える
+ プラス
苦手なことへの支援
- ソーシャルスキルが発達するような指導
- 周りが特性を理解する
- 長所を用いて弱点に対処する
(例えば視覚優位の場合、計画表など視覚的情報を与えるなど) - 合理的配慮
(例えば書字が困難な2Eの場合、パソコンを使う、口頭での発表の機会を多く設けるなど)
まとめ
ギフテッドの定義やよく見られる特徴をご紹介しました。特徴は共通してみられるとされていますが、必ずしも全員が全て当てはまるというわけではありません。
また、ギフテッドについては、詳しく下記の2冊の本に記されています。2冊ともギフテッドを知る上では必読の2冊だと思います。育児に行き詰っているときにこれらの本に出会えて私自身救われた部分もあります。
とても詳しく説明されており、今のところこの2冊に勝る本はないのではないでしょうか。2冊ともとても分厚い本なので、読むにはなかなかの時間を要するかもしれません。
もし導入として知りたい、支援者としてギフテッドがどんな特徴があるのか知りたい、という場合は文庫本のこちらもおすすめの一冊です。
参考文献
『わが子がギフテッドかもしれないと思ったら 問題解決と飛躍のための実践的ガイド』(J.T.ウェブほか著 角谷詩織 訳 2019年 春秋社