ピアプレッシャーと積極的分離 小学生高学年〜青年期に抱える生きづらさ

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思春期のギフテッド

ギフテッド児は生きづらさや困難を抱えていると言われています。以前低学年の頃の困りごとについての記事を書きました。

当時は息子も小学生で、リアルタイムで困っていたことについて書いていたのですが、今読み返すと困りごとが中学生になった現在と変化していることに気づきます。

ギフテッドの特性自体は大人になっても変わることはないので、ギフテッドの特性による困難は基本的には変わりません。
ただ、成長に伴い、自身の特性を理解できるようになり、自分で工夫して特性と付き合っていくことができるようになってくることもあります。

今回は思春期のギフテッド児がどのような生きづらさを感じているかについてです。

目次

ピアプレッシャー

ピアプレッシャー(peer pressure) とは、peer(仲間)とpressure(圧力)を組み合わせて「同調圧力」という意味を表します。

同調圧力とは、特定の集団において意見を言ったり意思決定をする際に、少数派が多数派に合わせるよう暗黙のうちに強制する圧力のことです。

この時期は特に仲間意識を持つようになり、ピアプレッシャーが強いとされています。

異なる意見があったとしても、無言の圧力によってそれを抑え込んで、同調せざるを得ないという状況は学校生活において頻繁に起きます。

特にギフテッドの思春期はピアプレッシャーの悩みを抱えることが多いようで、常に周囲からの目を気にしてしまい、精神的な苦痛を感じたり、ストレスを感じてしまいます。

本来の自分を出せなかったり学校に居場所がなく、結果として不登校になってしまうこともあります。

周りに合わせようと必死

ギフテッド児は、小学生低学年の頃にはすでに興味関心のあることが周りと違うことに気づき、好きなものを一つとっても知識量の違いになんとなく物足りなさを感じはじめます。

息子も、2年生ごろには興味関心のあることだけではなく、笑いのツボが合わないといったことにも周りの友人に違和感を感じるようになりました。

しかし、高学年になると本人もある程度自分の特性を理解しており、集団の中でどう振る舞えば受け入れられるかわかるようになりました。そして、自分を集団や相手に合わせて振る舞ったり、時には自分を演じるようになりました。息子の場合は

・勉強をすることはダサい
・(本当は違うことをしたいけど)ゲームばかりみんなしているから自分もやりたい
・中学受験をしたいけれど周りで勉強を必死にしている子はいないから自分も受験勉強をしているところは知られたくない。

といった内容でした。

いつも遊んでいる友達たちには、6年生の2学期の終わりまで中学受験をすることを内緒にしていました。

度重なる転勤のため信頼できる友達がなかなかできなかったこともあり、5年生で転入した学校では友達グループへの所属意識がとても高かったように思います。

もし、このタイミングで中学受験をして他の中学校に行くことがバレると、遊びに誘ってもらえなくなるのではないか思い、周りにレベルを合わせて付き合っていたとのこと。

当時、親としては、もう少し腰を据えて勉強したら?と思っていたのですが、ギフテッドに関する著書「わが子がギフティッドかもしれないと思ったら: 問題解決と飛躍のための実践的ガイド」によると、以下のようにあります。

一時的に自分の才能を隠したり、あまり良くないと思えるような友達と関わったりしても驚かなくて良い。おそらくその子はなんらかの困難と闘っているのだろう。何にかに属すということがどのような感じなのか、あるいは他の人の生き方、考え方、感じ方を知りたがっているのかもしれない。

〜中略〜

特に長年仲間関係の困難を経験していた子どもや、どこかに居場所が欲しいと切望していた子供にとって、仲間意識や居場所の魅力は非常に強く、抵抗できない。学業など二の次となる。

その結果自分の能力を隠し、アンダーアチーバーになってしまうこともあります。アンダーアチーバーは思春期の女子によく見られる特徴の一つと言われていますが、男子でも起こりうる問題です。

ただ、学業も頑張り、真似をしたくない友人の誘いにノーと言えるギフテッド児も多くいるので必ずしもみんなが同じ悩みを抱えているというわけではありません。

積極的分離(TPD)

「積極的分離」という言葉をご存知でしょうか。

積極的分離理論Theory of Positive DisintegrationTPD)とは、精神科医のカジミュシュ・ドンブロフスキ氏が提唱した人格発達(人格心理学)理論のことです。

ドンブロフスキは、Disintegration(崩壊)が発達において中心的でPositive(肯定的)な役割を果たすことから、自分の研究を「積極的分離理論」Theory of Positive Disintegrationと名付けました。

あまり耳にすることもなく、言葉からはイメージしにくいと思いますが、Wikipediaによると以下のようにあります。

「積極的分離」とは、知能が非常に高い人々が経験する複数の実存的危機によって、個人の精神的発達に大きく影響を与える心理現象のこと

引用元 Wikipedia

ドンブロフスキは、複数の実在的危機(葛藤、不適応、苦しい経験など)を、「最も利他的で理想的な姿」へと人格を発展させていく肯定的な兆候としています。

最も「利他的で理想的な姿」へは5つのレベルがあるとされていますが、全ての人々が、このレベルを進むわけではありません。Level5の人はほとんどおらず、多くの人(人口の65%)はLevel1であるとしています。

「積極的分離」は、ギフテッドのような人の方が一般的な人よりも起こりやすいとしています。ドンブロフスキは重要な要素として、3つ挙げています。

・special talents and abilities (e.g. high intelligence, athletic ability, artistic or musical talent)
 特別な才能と能力 (高い知能、運動能力、芸術的または音楽的才能など)

・third factor (a strong internal drive to express oneself through making autonomous choices) 
 第3の要素 (自律的な選択を通じて自分を表現しようとする強い内的衝動)

・overexcitability
 OE(過興奮性)

引用元 The Theory of Positive Disintegration (TPD) by Kazimierz Dąbrowski. An overview & archive.

このうちの2つはギフテッドの特徴と重なるものです。

母親である私自身は経験がなく、実際に体験した人でないとどういうものかなかなか表現することは難しいのですが、今思うとあの当時はまさに息子はレベル2にいたのではないかと思うのです。

身近な家族は息子の「Disintegration(崩壊)」に巻き込まれ、それはそれは壮絶なものでした。

「一体どうしちゃったの?!」と当時の記録にあるように、突然別人格になったような、目の前の息子が今までとは違う人間になったかのようなそんな感覚でした。(ちょうど小学生高学年の頃ですが、当時の様子はnoteにて有料記事にて公開しています。)

実在的危機は、思春期や更年期などの発達上の節目、ストレスの多いイベント(愛する人の死など)といった対処が困難な時期で発生します。

「積極的分離論」については私自身も目の前の息子に何が起きているのかわからず、向き合うのにものすごくエネルギーを消費しました。
本人も「どうしようもないんだよ」と表現していたように、家庭内は混沌としていました。今思うと、当の本人は相当苦しんでいたのではないかと察します。

今まで育ててきた我が子が思い悩む姿は、親として見ていてとても辛いものがあります。こういうことがあるんだということを事前に知っているだけで、その時が来た時に、我が家のように一家で危機に陥らずに済むのではないかと思いました。

積極的分離については、サイト「Kazimierz Dąbrowski’s Theory Positive Disintegration」にとても詳しく説明してあります。とても複雑かつ難解なため、今回はわかりやすいWikipediaから引用させていただきます。

Level1

第1要素(遺伝、直感)、及び第2要素(社会、環境)によって起こる最初の統合。平均的な人格はこの段階で統合。平均的な人格はこの段階で統合。最初の発達段階は幼年期に起こる。 「探求したい」「発見したい」「操作したい」「学びたい」といった願望が人格をより早く成熟させる。そして「なぜ人々はこのように振る舞うのか」「未来にはどんなことが待ち受けているのか」といったことに思いを巡らせ、また自分がいずれ死すべき運命にあることについてより強い実感を得る。この時ギフテッドの子どもたちは初めての危機を経験する。平均的な人格で離脱が起こる例としては思春期に短期間離脱した後に、包括的な精神構造の変革が起こらずに、以前の人格に戻る。

Level2

水平的葛藤。過渡段階。最初に自発的、単純な危機が起こると、同じレベルで反対の思考・両面価値、両面感情が発生。この段階では、ギフテッドの子供、あるいは青少年は仲間から受け入れられたいというニーズを抱く。しかし仲間との結びつきを得ることができず、最初の深刻な実存的危機が引き起こされる。

Level3

垂直的葛藤が水平的葛藤に置き換わる。同一の事象を異なった視点で捕える( vertical dimension multilevelness)。人格成長、自治に必要な段階。積極的分離は、突然ありのままの自分自身やそれまでに自分が成し遂げてきた物事に対して満足できないと感じた時にも起こる。 青少年時代にこの段階に到達し、自身の目標を再考したり、計画やアイディアの一部を放棄するようになる。自己との間に矛盾を感じるが、新たな解決策を見つけることでそれを克服する。

Level4

意識的な多段階・垂直的視点の獲得。ギフテッドの個人的発達の第四段階は、それまで自分が多くの時間を自分自身のことや自らのニーズにばかり費やしてきたことに気付いた時に起こる。他人に心を開き、もっと利他的になって社会全体の利益のために生きるべき時なのだろうと考え始める。この段階において、より高尚な、そしてより普遍的な価値観を取り入れていく。

Level5

個人的内省に基づく統合、創造、達成により、意識的、個人的価値観によって選択される統合。時に芸術表現として顕れる。責任感、親切心、利他主義を持ち、その視線をより抽象的で高レベルな原理へと定着させる。他者を助けるために動き、労力や努力をそのために捧げる人もいる。自らの足跡をこの世に刻み込みたいと思うようになり、進歩を促進することに集中し始める。

まとめ

ギフテッド本人ではないとわからない部分もあり、今回は文献に頼り執筆しました。

積極的分理論でいくとまだまだ自己中心的な考えであったり行動が見受けらるため、レベル5には至っているわけではないのですが、確かに人格的な成長を感じることがあるのも事実です。
おそらくこれから数年間は、進んだり戻ったりしていくことでしょう。

育てていて「ちょっと周りと違うかもしれない」と不安に思うことはもうなくなりましたが、また来たるべき時が来たらLevel5の二次統合へのステップだと理解し、周りが寄り添っていくことが必要なのではないかと思いました。

⇧「楽天ROOM」にて今まで子育てで役に立ったものなどをまとめています。「コレクション」のタブからカテゴリーごとに見ることができます。随時追加していますので、もしよろしければ参考にご覧ください。

ブログでは伝えきれていないことをnoteにて有料記事にて公開しています。今後も当サイトと分けて執筆予定です。

参照文献

Kazimierz Dąbrowski’s Theory Positive Disintegration
Dabrowski’s Theory and Existential Depression in Gifted Children and Adults
積極的分離理論(Wikipedia)

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