「パターンシーカー(pattern seeker)」という言葉をご存知でしょうか?私自身は最近知った言葉なのですが、和田秀樹さんのYouTubeチャンネルでも紹介されていたり、どんぐり発達クリニックの宮尾益知先生も紹介されていたので手に取ってみました。ギフテッドとも通じる部分があったのでとても興味深く一気に読んでしまいました。
「パターンシーカー」とは
パターンシーカーとは、パターン探しの達人のことです。
物事に潜在しているパターン(規則性・法則性)を発見することに心惹かれ、目に入る全てのものに説明を求め、ひたすら「真実」(ここでいう真実とは首尾一貫したパターンのこと)を探索する人のこと。
一方、パターンに当てはまらないものや予想可能な規則や法則に従わないものには興味を示しません。
彼らの行動をよく観察すると、物事の仕組みに潜む法則を発見しようとしていることがわかるそうです。
例えば、子供の頃の様子で言うと、校庭の端っこで葉っぱを集めてカテゴリーごとに分類したり、車のおもちゃを色やサイズなどパターンで並べ替えをしたり、時にはクラスメイトの前髪がまっすぐに揃っていないという理由で、ハサミで切ってしまったり。
側から見ると、「執着しすぎる」とか「気持ちが悪い」「何かに取り憑かれているみたいだ」「緻密すぎる」といったマイナスの言葉で表現されることが多いようです。
著者はこの書籍のなかで、法則性やパターンを見抜く能力、if-and-then(もしならば)のパターンを探索するエンジンのことを「システム化メカニズム」と呼んでいます。
このシステム化メカニズムは、発明者、STEAM分野の人々、ミュージシャン、職人、スポーツマンなどの完璧を目指す人のマインドの中で、超高度なレベルに調整されているそうです。
このシステム化メカニズムをオーバードライブに調整したマインドを持つ人たちこそ、人類の発明を促してきたと自閉症研究の第一人者でもあるケンブリッジ大学のサイモン・バロン=コーエン(Simon Baron-Cohen)氏は記しています。
パターンシーカーのような、絶え間なく繰り返される実験や観察こそ、結果として発明を導き、偉大な発明家を生み出す可能性があるとしています。
4歳まで話さなかったトーマス・アルバ・エジソン
以前、「ギフテッドはなぜ生まれるのか ギフテッドの特性は遺伝するのか?」という記事でもエジソンについて記しました。この書籍の中でも、パターンシーカーの一人の例としてアル(=エジソン)が登場します。
エジソンが授業中よく先生に叱られ学校を辞めた話は有名です。
幼少期は「なぜ?」と質問攻めにし、先生から「精神状態が錯乱している」とまで言われてしまいます。そんな息子を心配した母がホームスクーリングに切り替えるのですが、学校から解放されたエジソンは、ようやく世界中に存在しているパターンの探索に情熱を注ぐことができるようになります。その後は、周知の通り、数々の発明を世に送り出しています。
エジソンはいかなる時もシステム化せずにはいられなかった一方、他者を理解することは苦手だったそう。エジソンの時代には発達障害という概念はなかったようですが、エピソードから現代でいうADHD(注意欠陥多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)などの障害を持っていたとされています。
脳の5つのタイプ 「共感力の高いE型」と「システム化能力の高いS型」
英国脳タイプ研究によって、共感力とシステム化能力を測定する調査が60万人を対象として実施したところ、以下の5つの脳のタイプがあるとのこと。
①E型=共感力が高く女性に多い。
②S型=システム化への関心が高く男性に多い。
③B型=E型、S型のバランスが取れているタイプ
④エクストリームE型=非常に高い共感力、システム化能力は平均以下。
⑤エクストリームS型=システム化能力が高い、共感力は平均以下。パターン・シーカー。
この書籍では、「共感力E型」と「システム化能力S型」を対の脳のタイプとしています。
「共感力」とは、他人が考えていることや感じている事を察することができる能力で、この型は女性に多いと言われています。
「システム化能力」とは、システム化への関心度が高く、この方は男性に多いと言われています。システム化能力に優れていると、何かが壊れると真っ先に進んで修理をしようとしたり、彼らは、「試してみよう」と意欲的に取り組みます。試行錯誤をしながら機能を理解することができるのがこのタイプです。
「B型」を共感力とシステム化能力の間に差がない「バランス型」とし、非常に高い共感力を持つ人を「エクストリームE型」、非常に強いシステム化能力を持つ人を「エクストリームS型」としています。
このエクストリームS型は、ハイパーシステマイザーであり、サヴァン症候群も含まれるそうです。
そして、興味深かったのは男女ともに、自閉症者は「S型」もしくは「エクストリームS型」である割合が他のタイプの割合よりも高く、また遺伝的関連性も見られるということです。
パターンシーカーがギフテッドと通ずるものがあるなと思ったのは、この辺りでした。まさに、「試してみよう」とあれこれ試行錯誤をするのが好きな息子はS型の脳だなと思います。
また、息子は小学4年生ごろ耳コピでベートーヴェンの「月光」を弾き始めたのですが、バスケットボール選手のブライアント選手が「月光」を何度も繰り返し聴いて耳で音楽をコピーして曲を理解したとのこと。この耳コピもシステム化能力の一例として挙げられていたのは面白いと思いました。
こちらの本の巻末には、5つの脳チェックもついているので、気になる方はぜひ。
映画「レインマン」は、見たことある方もいらっしゃるのではないでしょうか。自閉症の兄とお金が欲しい弟が、父の死をきっかけに再会し、精神的に成長していく話です。サヴァン症候群でもある兄の様子が描かれています。
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パターンシーカーはHSP?
Google検索するとHSPという単語も出てくるのですが、この書籍にはHSP(Highly Sensitive Person・ハイリーセンシティブパーソン)に関しては書かれていませんでした。
ASD(自閉症スペクトラム)とHSPの特性自体が似ている点があったり、ASDとHSPの特性を併せて持っているケースもあるため検索されているのかもしれません。
パターンシーカーを見逃さない
今回取り上げた「パターンシーカー」はまだ馴染みのない単語かもしれません。
自閉症と診断されてこの先どう育てていくか悩んだり、考えたりしている保護者の方にもぜひ一読をお勧めします。
日本ではまだまだ、自閉症というと「障害」というイメージがあるように思います。そのイメージもこの書籍を読み終えた後には、変化するのではないでしょうか。
言葉が遅くて心配だったり、人と極端に関わらなかったり‥。これで社会に出られるのだろうか…と親として心配になりますよね。
ただ、ものは見方によっては、良い面も悪い面もあるということは、何事においてもそうだと思います。自閉症と一言で言ってもいろいろな面があります。
息子は正式な診断名はついていませんが、2Eと診断され、自閉症スペクトラムの傾向があると言われたことがあります。私自身、どう育てていくのが良いのか、自分とはまるで違う生き物を目の前に途方に暮れました。
時を経て、私自身も親として経験と知識を積み、今は多様性の一つ、個性の一つとして捉えることができるようになりました。もっともっと世の中にパターンシーカーが活躍できる場が増えることを期待しています。