「ギフテッド =天才」というイメージをお持ちの方はまだ多くいらっしゃるかもしれません。確かに英才タイプのギフテッド はそうかもしれません。しかし、「ギフテッドなのに勉強ができない」と思われている方も一定数います。
賢いのに、学校の成績がふるわないといった子を表す「アンダーアチーバー」という言葉はご存知でしょうか。
今回はアンダーアチーバーになる原因と対策についてです。
アンダーアチーブメントとは?
アンダーアチーブメントは、学齢期では学業不振を指すことが多いが、本来持っている能力にははるかに及ばず、本人も苦悩している状態が学業に限らず生じる。
引用元わが子がギフティッドかもしれないと思ったら-問題解決と飛躍のための実践的ガイド-ジェームス・T・ウェブ
普段、知的さが感じられたり賢い印象がある子が、学校の勉強や成績が振るわないことをいい、日本語では「低達成」と訳されたりします。そして、こういった子のことを「アンダーアチーバー」といいます。反対に、知能水準から期待される力よりはるかに高い学業成績を示す子のことを「オーバーアチーバー」と言います。
ではなぜアンダーアチーバーになってしまうのでしょうか。
アンダーアチーブメント(低達成)の原因
①学習障害など身体的問題
ギフテッドの中にも学習障害などの障害を併せ持っている場合があります。秀でた部分によって隠されるためギフテッド児の学習障害は見落とされやすく、学習意欲が低下してしまうことがあります。
また、不注意欠陥や衝動性といった特性(ADHD)から長時間学習に集中して取り組むことができないといった可能性もあります。
②学校の勉強システムが合わない
未就学の時は好奇心が旺盛だったギフテッド児。そんな子が学業不振になる原因は、小学校時代から始まる簡単すぎて、やりがいに欠けてしまう学習ということが原因のほとんどだそうです。「先に進んではダメです」「学校ではまだ習っていません」「みんなと足並みを合わせて」というのは、一般的な小学校ではよくあることです。
このように、本来は学習意欲のある才能のある子供が、退屈で反復的な学習をするよう求められたり、無意味な宿題を拒否したために成績が落ちると、その子供は高成績であることの価値に疑問を抱き始めます。
ギフテッド児はクラスメイトより早く課題も終えてしまうので授業の大半の時間を、暇つぶしをして過ごします。息子も教科書に落書きをしたり、今日の宿題をこっそりしたり、消しゴムが穴だらけになったり、鉛筆の削った部分を真っ黒にしてきたり…。
このように自分の能力に合っていない学習環境に晒され続けるというのも原因の一つとなります。
③周りの目を気にしてしまう
学業不振の原因として、仲間に合わせようとしたり、馴染もうとするために意図的に学業不振になることがあります。「ガリ勉=ダサい」といじめられたりすることもあります。
息子も6年生の後半まで中学受験をすること、塾に通っていることは内緒にしていたそうです。「中学受験をする人=ガリ勉」といったイメージがあったので、そうならないために隠し、放課後遊ぶ友達コミュニティの一員として受け入れてもらおうとしていたのだと思います。
公園から塾に直接行く場合も、友達と帰る方向が一緒だった場合、途中まで一緒に帰って家に帰るふりをして引き返していたとか。
ギフテッド児は、このように受け入れられるために周りに合わせる方が得策だということもわかっています。
このタイプのアンダーアチーバーは女の子のギフテッドに比較的多く、ギフテッドの6つの分類の中のThe Underground(地下タイプ)と似ているかもしれません。女の子のギフテッドの特徴として、同調圧力などから才能を隠そうとする子も多いようです。
④親子関係
親から期待されすぎていたり、期待されなさすぎていたり、といったことも原因になります。
また、宿題をやろうとしない我が子に、成績が下がるからという理由で何がなんでもやらせようとしても、子供の方も意地でもやらない。という衝突が起こることがあります。意志が強いギフテッド児はこのような態度で怒りを表現したり、権力を得ようとしていることもあります。
⑤他に情熱的に興味をもっているものがある
ゲームや芸術分野などに興味と知識を持っているにも関わらず、これらの興味関心がある分野が学習とは関係ない場合、勉強よりも重要ではないとみなされることがよくあります。さらに、学校での成績があまりにも悪いと、これらの情熱や興味のある分野は「学校の勉強に真剣に取り組むようになるまで」子供から取り上げてしまったりすることがあります。
そして親子間で争いがさらに増えることになってしまい、先ほどの項目のように子供も意地でもやらないといった衝突が起こる可能性があります。
アンダーアチーバーにならないための対策
①学習環境を見直す
周りの友達が高め合える友達である場合、先ほどの「周りの目を気にしてしまう」という心配はなくなります。一緒に目標達成に迎える仲間や、切磋琢磨できる友達がいれば学業不振は起こりにくくなります。
実際、息子は中学受験をし周りのレベルが同じくらいの中に入るとこの問題は解決しました。「みんなも勉強しているから勉強するのが当たり前」「上には上がいる」という環境がとても合っているようです。最近息子が言っていたのは「小学校は勉強しなくてもできるから競争心がまるでなかった。張り合える友達がいるから今は頑張れる」とのこと。ギフテッド児にとって、環境はとても大事です。
小学校との関係づくりについてはこちら
②親子や教師との関係
ギフテッドならもっとできるはずだ、といった期待しすぎることも、成功体験を積ませるために期待値を低くすることも、どちらも本人の学習意欲を削いでしまう可能性があります。
またギフテッド児との衝突は、労力の無駄であると同時に学習意欲をなくしてしまう原因となるため、同じ土俵で戦わないようにします。
先生の場合、型にはめる先生、神経質な先生、頭ごなしに叱る先生などタイプも様々です。
息子は理解者ではない先生の言うことは一切聞かない。という態度をとっていたため結果的にその教科は成績が悪くなると言うことが起きてしまいました。
③興味関心のあることを土台に
学習意欲が落ちてしまってる場合は、その子が興味関心のあることに課題を結びつけ、探究心を高めるように導いていくと意欲が戻ってくることがあります。
内容はゲームでも芸術でも漫画でも何でもよく、情熱的になっているものの背中を押します。そうすることによって、いずれ熱意の矛先が変わるかもしれません。
④過程を褒める
結果だけではなく努力をしている過程を意識的に褒めることで成功体験を増やす方法です。
「非同期発達」や2Eの特性が見られる場合、日常的に叱られることが多くなっているかもしれません。望ましい行動(学習に限らず)をした場合は、すぐ褒めることで、成功の連鎖により意欲を高めます。褒めるタイミングが大切です。
⑤その子に合った学習スタイルをみつける
アメリカのギフテッド教育では主に3つの方式がとられており、そのうちの一つである「エンリッチメント方式」というものがあります。
エンリッチメント・プログラムとは生徒の精神的健康を念頭に置いて、主体的な関心を持って学習できるよう工夫して作り上げられたもので、通常級にいながら、個別にレベルにあったカリキュラムで学べる方式です。個別に発展問題のプリントを与えるなど、比較的日本の教室でも取り入れやすい方法です。
ホームスクールの場合は無学年式の教材でどんどん進めるのも良いと思います。まさに「すらら」は無学年式なので自分のペースで進めることができます。
「すらら」は自宅で学習すれば出席扱いにもなります。「すらら」は早い時期からこの取り組みをしており、過去にもたくさん学校と連携をして出席扱いにしてきた実績もあります。
我が家が受講していた時は無学年式ではなかったのですが、2022年から「スマイルゼミ」 も無学年式になりました。「スマイルゼミ」 は、学校の教科書準拠なので、学校に合わせて自宅で学習できます。
ただ、このように無学年学習化が進むのは浮きこぼれなどがある場合はメリットもあると思いますが、ホームスクーリングではなく学校に行っている場合は余計授業を聞かなくなってしまったり、わかっていると過信してしまったりというデメリットもある気がします。やみくもに進めるのではなくその子にあった学習スタイルを見つけることが大切だと思います。
ギフテッド児は学校の成績が悪いのか?
最後に、ギフテッド児は学校の成績が悪いのか?という疑問についてです。
学校の成績は、テストだけではなく提出物や授業態度も加味されるため、アンダーアチーブメントの場合、成績は普通もしくは悪くなる可能性はあります。
しかし、学校の成績は先生次第であるところがあるため、一概にギフテッド児の学校の成績が悪いともいえません。
息子は2、3年生の頃の授業態度は散々でしたが、2年生の1学期から3学期にかけて成績は上がり2年生の3学期から3年生の3学期まではずっとオールAというような成績でした。
この頃は、授業中はうるさくて授業が止まる、授業妨害だと廊下に出されたり、面談でも散々な言われようでしたので、逆にびっくりしたのを覚えています。
毎日怒られ、自己肯定感は下がったのは下がったのですが、それでも学習面を評価してもらえたのは救いでした。
5、6年からは教科数も増え、オールAではなくなるのですが、学校の成績は悪い方ではありませんでした。高学年で変わることといえば、専科の授業が増えてくるため、教科担任がその授業の様子だけを見て成績をつけます。
本人の特性を把握している担任に比べ、専科の先生はその教科の授業だけを見て成績をつけるためその科目だけ態度が悪い場合は著しく悪くなるということが起きます。音楽はとても好きなのですが、ピアノで音を外すのが気持ち悪すぎて音楽の授業態度が悪くなったことがあったようで、その時だけは音楽の成績が一番悪いということもありました。
まとめ
以上、ギフテッドのアンダーアチーブメントと学校の成績についてでした。アンダーアチーブメントに関しても、ギフテッド子育ての基本指針である、「情緒的発達の支援」と「才能を伸ばす支援」の両方をする必要があります。
一度アンダーアチーバーになると戻るまで、長期的な目で支援することが必要です。ギフテッド児は、勉強に限らず何かしら意欲を持っています。今は環境のおかげもあり意欲的に学習していますがまたいつどうなるかわかりません。親としてはそのサインを見逃さないようにしていきたいものです。
参考文献 「わが子がギフティッドかもしれないと思ったら: 問題解決と飛躍のための実践的ガイド」 Davidson Institute