MI理論(Multiple Intelligences )という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。日本語では「多重知能」と訳されることからも分かるように、知能は一つではなく複数あるという考え方に基づく理論です。
日本の教育における「知能」は知能検査や筆記試験で測れるような狭義での知能を意味することが多いのですが、MI理論における知能は複数の異なる種類の知能があると主張しています。
今回は、ギフテッドの才能としても取り上げられることのあるMI理論「8つの知能」についてです。
MI理論とは
MI理論(Multiple Intelligences Theory、多重知能理論)は、アメリカの心理学者ハワード・ガードナー(Howard Gardner)が1983年に提唱した理論です。
「人は皆それぞれ一組のMultiple Intelligences(多重知性)を持っており、少なくとも8-9つの知的活動における特定の分野で、才能を大いに伸ばすことが出来る。(1983)」という考え方です。
ガードナーは、人々が異なる種類の知能を持ち、それぞれが特定の分野で得意な能力を発揮できるという考えを基にしています。
8つの知能と才能
MI理論では、以下の8つの知能が提唱されています。
このように、「知能」といっても必ずしも学術分野に限ったことではありません。
知能 | 言語的ことばの能力。知能検査や学力検査で測定される類の力 |
---|---|
知能 | 音楽的音の調子やリズムの微妙な違いやパターンを感じ取ったり音楽を演奏する能力 |
論理数学的知能 | 帰納的推論や演繹的推論を用いて因果関係を理解する能力。数字のような記号を用いた抽象的なパターンを理解する能力 |
知能 | 空間的空間次元を視覚化したり、その内部イメージを創造したり、ものを効果的に意味をもたせて配列する能力 |
身体運動的知能 | 身体的感覚を識別したり、体操やダンスなど身体の動きをコントロールするする能力 |
知能 | 対人的人とのコミュニケーションや関係性にかかわる高度な能力。人を理解し導きリードする能力 |
知能 | 内省的自己についての鋭い感覚。内省や自己の気づきなど内的状態を高める能力 |
知能 | 博物的身の回りにあるさまざまな事象を認識し、違いや共通点を見つける能力 |
MI理論に関してはまだ、日本ではさほど議論されていないようですが、日能研の「8つの知能ってなあに」というサイトがとても分かりやすくまとめてあります。
言語的知能(Linguistic Intelligence)
話をする、文章を書くなど、言葉を使いこなす知能。
言葉を使って人を説得したり、情報を記憶したりすることが得意。言語の構造や意味、言葉の特質を巧みに使いこなすことができる。
・本を読むこと、書くことが好き
・話すことが好き
・聞く力が強く、他人の意図や感情を正確に汲み取ることができる
・言語のさまざまな機能に対する感受性が高い
・外国語に興味がある
ライター、詩人、弁護士、教師などがこの知能に長けています。
音楽的知能(Musical Intelligence)
メロディー・リズム・ピッチ・音質などを認識、識別したり、演奏や作曲など表現したりする知能。
・楽器を演奏するのが好き、得意
・音楽をよく聴く
・音程を聞き分けることができる
・音の高低やリズムに敏感
・曲をすぐ覚えてしまう
・文章を書くと自然と韻を踏んでいることがある
作曲家、演奏家、指揮者、俳優などはこの知能が長けています。
「音楽的知能」については別途息子の例を挙げて詳しく書いていますのでよろしければこちらもご覧ください。
論理数学的知能(Logical-Mathematical Intelligence)
計算や分析などに必要な論理的思考力。
論理的なパターンや相互関係、命題(仮説や因果関係)、また抽象的な概念に対応できる知能。
・問題解決が得意
・計算、算数が好き
・論理的、数値的なパターンに対する感度が高い
・物事のパターン(規則性)や関係を探る
科学者、エンジニア、数学者などに関連します。
空間的知能(Spatial Intelligence)
空間のなかで物事をイメージ・認識・表現できる力。
その認識を自由に転換させたりすることができる知能。
・図や絵を描くのが好き
・絵や映画を見るのが好き
・設計したり組み立てる
・視覚空間を正確に認識する
・最初の知覚を変換できる
建築家、アーティスト、デザイナー、彫刻家などに見られる知能です。
身体運動的知能(Bodily-Kinesthetic Intelligence)
身体を使った表現力。
考えや気持ちを自分の体を使って表現したり、自分の手でものをつくったり、つくりかえたりする知能。手先を器用に使ったり、体を使って取り組んだりすることができる。
・運動神経が良い
・手先が器用
・実践することが得意
・身体の体を制御し、巧みに扱うことができる
ダンサー、スポーツ選手、職人などに当てはまります。
対人的知能(Interpersonal Intelligence)
他人の感情や考えを理解できる力、コミュニケーション能力。
表情・声・ジェスチャーに反応したり、人間関係におけるさまざまな合図を読み取ったり、その合図に効果的に反応したりすることができる。
・人と話すのが好き
・他者に対する洞察力がある
・コミュニケーションを好む
・表情や言葉、態度から相手の感情を読み取る
・相手の心の動きに合わせて適切に対応できる
教師、セラピスト、セールスマン、リーダーなどに必要な知能です。
内省的知能(Intrapersonal Intelligence)
自分自身の感情、欲求、思考、強みや弱みを深く理解し、それに基づいて自分の行動をコントロールできる能力。
この知能は、自己認識と自己反省の力に関連しており、感情の調整やモチベーションの維持、目標設定などに重要な役割を果たします。
・自分の関心を追求する
・目標や夢が明確
・内省する
・他人の影響を受けず自分を導くことができる
・内発的な動機に基づいて行動する
・自分の感情(喜び・怒りなど)を客観的に理解しコントロールできる
内省的知能は、特定の職業はなく、自分自身のために決定を下さなければならない複雑な現代社会のすべての個人の目標だとしています。(自己知性と呼ばれることもあります。)
博物学的知能(Naturalistic Intelligence)
自然環境や生物に対する理解や関心、分類能力に優れている能力。「自然主義的知能」とも呼ばれます。
ハワード・ガードナーは、1983年のMI理論発表当初にはこの知能を含めていませんでしたが、後の研究で追加し、人間が自然環境とどのように関わるかに焦点を当てました。
・自然界のことに敏感
・自然現象のみならず日常の事象を認識する
・図鑑が好き
・野外での観察活動(バードウォッチング、動植物の研究など)が好き
・生態系の相互作用や自然界の法則を理解しようとする
生物学者や自然科学者、環境保護活動、農業従事者などはこの能力が長けています。
自分の強みを診断する方法
いかがでしょう。これは得意だな、と思うことが一つないしはいくつか見つかったでしょうか。
ここまで、MI理論についてお伝えしてきましたが、それでも自分が何に向いているかわからない、得意なことなんてない、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
そんな方に向けて、得意なこと、強みを知る方法を2つご紹介します。
無料診断サイトで質問に答える方法
こちらのサイトは無料で質問に答えていくことで、どの分野が強みか知ることができます。簡単な質問に答えるだけで自分の強みを知ることができます。案外意外なことが得意であることに気づくかもしれません。
本で学ぶ
もっと深く知りたい方や、まだ質問に答えられないようなお子さんの強みを伸ばしてあげたいと思われている方には本もおすすめです。
これらの2冊はハーバード大学の心理学教授、ハワード・ガードナー氏が生み出した多重知能理論(MI理論)を紹介し、使いこなすための入門書です。
読みやすい内容となっていますのでよろしければ手に取ってみてください。
まとめ
苦手なことをできるようにしようとしたり、できないことばかりに目がいってしまうことは育児や教育においてよくあることだと思います。MI理論は一人ひとりの個性や才能を尊重し、多様な知能の発達を促すものです。
苦手なことよりも、得意なことに注目をすることで、その子自身の持つ能力を高めていきやすくなるかもしれません。
また、知能検査やペーパーテストで簡単に測れる知能(ここでは言語的知能や論理数学的知能)だけに注目するのではなく、それぞれのお子さんの特性を見て、子育てに活かしてみてはいかがでしょうか。
参考文献
Educational Implications of the Theory of Multiple Intelligences(Gardner, 1983)
自分の強みを見つけよう~「8つの知能」で未来を切り開く~
Multiple Intelligences(多重知性)
日能研の「8つの知能ってなあに」