今でこそ「ギフテッド」という言葉をよく耳にするようになりましたが、数十年前の日本では「ギフテッド」という概念は周知されていませんでした。
最近「ギフテッド」という言葉に出会い、自身の幼少期の様子や、社会人になって抱えている困りごとなどを照らし合わせたときに
もしかしたらギフテッドかもしれない
と大人になってから気づく方もいらっしゃるのではないでしょうか。
または、わが子を育てている中で、ギフテッドについて調べているうちに自分にあまりにも当てはまり自分がギフテッドであると気づく。というケースもあるかと思います。
子どものギフテッドにまつわる情報は目にすることが多いものの、大人のギフテッドについてはまだそこまで議論されていません。大人のギフテッドの特徴はどんな感じなのか、今回は大人のギフテッドについて調べてみました。
やはりギフテッドに関しては、国内より海外の文献の方が豊富です。それらに基づいてご紹介します。
大人のギフテッドの特徴
「Gifted Adults: Their Characteristics and Emotions」の著者 Annemarie Roeperによると、以下のように書かれています。
才能は社会において、プラスにもマイナスにも作用する可能性がある。ギフテッドの大人の特徴は多くの場合幼少期に現れ、人生経験を形作る。また、子供の頃と同じ特徴が生涯を通じて存在し、成長するにつれて多少変化する。
こちら文献で、ギフテッドの大人の典型的な特徴を挙げておりその中からいくつか抜粋してご紹介します。
他の人と知的に異なり、洗練され、グローバルな考え方を持っている
取り巻く世界の複雑な関係、パターンを理解することができる。ただし、想像力と創造性は一般的な人には理解できないことがよくあります。
子供のような感情を持ち続ける
Annemarie Roeperは、「天才性」と「子供らしさ」の組み合わさった例としてモーツァルトを挙げています。
聡明で革新的なアイデアを生み出す一方、自己中心的で幼稚なアプローチのため、他の人々と一緒に仕事をするときに困難が生じることがあるとしています。
しかし、この子どものような喜びを持ち続ける能力はエネルギーの源にもなるとしています。
才能によって駆り立てられる
才能に突き動かされることが多く、探究し、作曲し、執筆し、絵を描き、理論を展開し、教育し、研究をします。創造的なプロセスから大きな満足感を得るとしています。しばしば才能に駆り立てられ、創造性のプレッシャーに圧倒される可能性があります。
以前読んだ「イェール大学人気講義 天才 ~その「隠れた習慣」を解き明かす」という本のフレーズ、0から何かを生み出すクリエイティブさであったり創造力こそが天才。と書かれていた点とつながると思いました。
強い感情を抱く
宇宙の美しさと驚異を理解する能力が高い。世界の豊かさを深く体験し、人間関係、自然、文学に美しさを見出します。
これはギフテッドのOE(過興奮症・過度激動)の特徴のことだと思います。強い感受性は、子ども時代だけではなく、大人になってからも続くとしています。
必ずしも人気があるわけではない
自分の興味を共有する人と関係を築きます。
そのため、友達の輪が狭かったり、時には一人だったりすることもありますが、人間関係は深く、意味があります。
中には、リーダーシップの資質を持ち、集団や国家にインスピレーションを与える人もいます。
驚くべき言語能力を持っている
知的議論をするのが大好きで、他のギフテッドの大人とアイデア交換をすることを切望しています。
ギフテッドの言語能力が高いという特性は子ども時代の特性としてもよく言われます。
孤独、熟考、空想を必要としている
深く考え、深い洞察力を持っています。
また、自分の内面的な経験や自分自身を理解するために、静かな時間を必要とします。しかし、現代の多忙な生活様式には、熟考する時間が組み込まれていないので、時間を確保する必要があります。
独自の学習方法
得意分野での学習が驚くほど早く、独特な習得方法を取ります。
送迎するバスのルートを考える時、最短距離を取るよりも、交通量が少ない長いルートの方が実際には時間的に速いかも知れないということに気づいたりします。しかし、特殊な考え方は周りには理解されないことが多く、衝突してしまうこともあります。
子どもの頃から、ちょっと周りとは違うものの見方をしていたり、一般的とされている方法ではないやり方で取り組むといったことはよくあるのではないでしょうか。
問題意識を持っている
問題に対して一般の人とは異なる解決方法を見つける能力が優れています。特別な問題意識を持っており、結果を予測したり、人間関係を見たり、起こりそうな問題を予見したりする能力を持っています。
先回りをして解決策を見つけることによって、問題の予防にもつながることもあります。ただ、誰もその可能性を予想していなかったため、評価はされません。
リスクを取らない
何が危険にさらされているかをよく知っているため、リスクを取ることは他の人よりも慎重になる場合があります。
リスクを取る必要性をより深く理解し、大きな不安を抱きます。より慎重な調査を行って初めて行動に移す傾向があります。例としてプールの飛び込みが挙げられています。ギフテッドは、飛び込むまで時間がかかるものの、頭を打つリスクは低いとあります。
完璧主義
完璧主義は、他人からの期待だけではなく、自分自身の基準や期待という点においても完璧主義者です。
自分自身の期待を満たしたいという衝動があります。誰も周りは必要性を感じていなくてもできないと罪悪感、劣等感を伴うことがよくあります。
余談として、現在わが家の息子は中学生ですが、この完璧主義は、歳を重ねるごとに思春期くらいから強くなってきました。自分の失敗が「許せない」というような感情から自身に失望します。高い理想に向かってどう行動すべきかを常に考えているように感じます。
多方面で多才である
多くの領域で能力が多すぎるという問題に直面します。
著書の中で、例として、大学生の例を挙げています。ギフテッドの学生は優れた学習能力を持っており、いくつかの分野を並行して学び、離れた分野で複数の博士号を取得できる場合があるとしています。テレビを見る、チェスをする、勉強をするなどいくつかのことを同時に実行し、すべてうまくこなす能力を持っている人もいます。
「ギフテッドのあるある?うちだけあるある?」にも書きましたが、わが家の息子はテレビゲームをしながら、YouTubeを携帯で見て、ゲームの合間にピアノを弾き、ピアノを弾いている間は譜面台に楽譜ではなく携帯を置いてYouTubeやLINEを見ながら練習をし、合間にご飯も食べます。これは多才といえるのか分かりませんが、一度にいくつも同時に行ったり、当時に考え事をしたりということはギフテッドにはよくあることのようです。
短絡的な他人の行動を理解しがたい
人生の多くの領域に渡って強い感情を抱いていることが多い。公私にわたる多くの行動の愚かさ、不公平さ、危険性がわかるため、一見矛盾した短絡的な他人の行動を理解するのが難しいようです。
ユーモアがある
最も顕著な特徴の一つは、微妙なジョーク、複雑なからかい、ダジャレなどユーモアのセンスです。人の面白い側面を見るには、複雑な思考が必要です。ただし、ユーモアのセンスは他人とは異なり、自分のジョークが理解されずに沈黙で受け止められることがよくあります。
権威者に対して
上司の決定をただ素直に受け入れることはありません。矛盾点をときには指摘してしまい、上から目線だと捉えられることもあるかもしれません。
子どもの頃は学校の先生に対して挑戦的なタイプがいます。社会に出て会社勤めになった時は上司にも挑戦的になるのかもしれません。
強い道徳的信念を持つ
強い道徳的信念を持っており、多くの人が自分の特定の才能、洞察力、知識を「世界をよりよくするために」利用しています。世界情勢の複雑さ、パターン、相互関係を理解している、グローバルな思想家です。しかし、世界ではギフテッドに対する理解が不足しているため、ギフテッドが社会に役立つ潜在能力を十分に発揮できません。
以上いかがでしょうか。子どもの頃に見られる特徴に関しては以下に記載していますが、似ている部分が多くあります。そして成長とともに、学校や家庭が中心だったのが、視点が社会や世界などに広がっていることがわかります。
「十で神童十五で才子、二十歳すぎたらただの人」にはなりません
こう見ると子どもの頃のギフテッドの共通特性とは項目は若干異なるものの、大人のギフテッドの特徴はすでに子供の時から持っている特性なのでやはり大人になってもギフテッドの特性自体は変わらないことがわかります。
それでも、「十で神童十五で才子、二十歳すぎたらただの人」と言われる理由はなぜしょうか。
そもそも「ギフテッド=神童」でないのですが、このように言われる理由は、ギフテッド児たちは学校という場で「周りと同じに見せる方法」を身につけたり、アンダーアチーバーのように知性を隠す手段を身につけていくので、大人になるにつれてそう見えるというのが理由の一つにあります。
二つ目は、幼少期に英才教育で親が知識などを年齢相当より先に詰め込んだ場合、小さい頃は「この年でこんなことも知っているの?」ということが頻繁に起こります。
しかし、歳を重ねるにつれて徐々に周りの知能が年齢とともに追いついてきて、周りとの差がなくなったため「ただの人」になるというケースもあります。その場合は、本来の意味での「ギフテッド」とは言えません。
大人のギフテッドが抱える困難
小学生や子どものギフテッド児が抱える困難については以前書きましたが、大人になったからといって困難がなくなるわけではありません。
ギフテッドの人が生きづらさを抱えているということは、本などにも書かれていますが、今回は「Issues for Gifted Adults」by. Deirdre V. Lovecky という文献を目にしたので少しご紹介します。
この文献で著者は、大人のギフテッド特性の社会的側面(良い面と悪い面)について述べています。大人のギフテッドの特性として5つ divergency, excitability, sensitivity, perceptivity, and entelechy を挙げています。(直訳だと逸脱・興奮性・感受性・知覚性・現実性)
この5つの特性の良い面は先に述べた大人のギフテッドの特徴と重なる部分もあるため、ここでは割愛しますが、悪い面としては対人関係および個人内での葛藤を引き起こす可能性があるとしています。
大人のギフテッドは、才能の否定や他人からの拒絶などに絶えず直面します。そのため、自分自身を大切にし、他人からのサポートを見つけることを習得しなければ、アイデンティティの葛藤や抑うつが生じる可能性があるとのこと。
本文の中で自己成長のための選択肢をいくつか挙げています。もしかしたら今現在、ギフテッドであるということはわかっているけれど、生きづらさを感じていたり、困難を抱えている方はヒントになるかもしれません。
Nurturing the Self 自己を育てる
Knowing oneself 自己を知る
Accepting oneself 自己を受け入れる
Finding sources of personal power 個人的な力の源を見つける
Nurturing Interpersonal Relationships 対人関係を育む
自分自身を理解し、愛し、受け入れることが大切であることがわかります。
また、自己理解のためには、「自己の象徴(personal symbols)」を発見すると、自分の洞察力や直感の価値を見出す手助けになるとのこと。「自己の象徴」は、空想や夢の分析、詩の執筆、日記を書いたり、スケッチなど様々な方法で探究できるとしています。
対人関係に関しては、子どもの頃からなかなかうまくいかないと悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ギフテッドは、自分自身と他人に対して高い期待を抱いていることがよくあります。気付かぬうちに、他人にも自分と同じ能力を求めてしまっているかもしれません。自分自身の才能だけではなく、他人の才能を認めることも大切です。
「大人のギフテッド 高知能なのになぜ生きづらいのか?」
昨年、興味深い題名の本が出版されたので手に取ってみました。
その名も「大人のギフテッド 高知能なのになぜ生きづらいのか?」
Amazonの評判は賛否両論ありますが、興味をそそる題名だったので読んでみました。実際読んでみた感想をお伝えしようと思います。
目次
第1章 ギフテッドとはどういう意味?
第2章 なぜギフテッドの大人に関心を抱くことが重要か?
第3章 子どもから大人へ…自己構築の難しさ
第4章 大人になってギフテッドであることに気づく
第5章 個性は思いがけない多様な面をもつ
第6章 ギフテッドの大人であることの難しさ
第7章 女性の側
第8章 カップル…似た者同士が一緒になる?
第9章 そしてうまくいっている人たちは?
第10章 うまくいくにはどうしたらいいのだろう?
第11章 すべてがうまくいかないとき
結論に代えて
幸せな大人になる子どものギフテッドの歩みとは
感想としては、正直なところ読みづらかったです。本を読むのは好きなので、分厚い本もすぐ読んでしまうのですが、この本は読むには読めるのですが理解するまでに時間がかかってしまいました…。
本の中で印象的だった箇所は、第9章の中にある「幸せな大人になる子どものギフテッドの歩み」という項目です。
その子の価値を認め、褒めて、励ますことの重要性を理解している愛情に満ちた家庭環境こそが大切としています。それらがギフテッド児が発達する上での糧となる。愛をたくさん注がれることが必要とのこと。
彼らは欠点を理解しているから思い上がることは決してない。もし自惚れているように見えたら自尊心からだとしています。
これは以前、カウンセリングを受けた時に、
「僕はすごいんだ、こんなこともできるんだ」と誇示していますが、それは自信のなさの現れな気がします。
自分の弱さや出来なさを本人はわかっています。
と言われた事がありました。
もし子どもにこう言われたら、私なら
どこがすごいの?あれもこれも出来ないじゃない
と言ってしまうと思います。
この本にもあるように、ギフテッドの子が大人になる前に必要なのものは安心できる言葉、愛をたくさん注がれる事ではないでしょうか。
まとめ
以上、大人のギフテッドについてご紹介しました。
大人になったからといってやはり特性は無くなるものでないことがわかりました。上記の本の、副題にもなっているように、大人になっても実際生きづらさを感じるのかもしれません。
社会にギフテッドの認知が広まること、周りが本人を理解してあげること、そして本人自身ができることを組み合わせて、生きづらさを感じない社会になればいいなと思います。
参考文献
「Gifted Adults: Their Characteristics and Emotions」
「大人のギフテッド 高知能なのになぜ生きづらいのか?」
ブログでは伝えきれていないことをnoteにて有料記事にて公開しています。今後も当サイトと分けて執筆予定です。